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研究・業績紹介

研究内容

​研究内容

半側空間無視の病態解明とリハビリテーション治療の開発

 右半球脳損傷患者の4割程度に認められる高次脳機能障害である半側空間無視(以下、無視)は視覚注意ネットワークの半球間アンバランスにより生じると考えられています。私たちは、無視に対してプリズム適応(PA)療法(図1)を導入し、ランダム化比較試験を行い、回復期のリハビリテーション治療効果を促進することを報告しました(Mizuno et al., 2011)。現在、PA療法は脳卒中ガイドライン2021でも推奨される治療法(グレードB)とされています。一方、反復経頭蓋磁気刺激(repetitive trans-cranial magnetic stimulation: rTMS)や経頭蓋直流電流刺激(trans-cranial direct current stimulation: tDCS)などの非侵襲的脳刺激法(non-invasive brain stimulation: NIBS)などのニューロモデュレーション(neuromodulation: NM)手法の効果も報告されています。しかし、これらによる治療効果の神経学的メカニズムはまだ十分に解明されていません。
 近年の学説では無視は視覚性注意ネットワークの機能的半球間アンバランスから生じると考えられています(図2; Corbetta & Shulman, 2011)。近年、機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging: fMRI)により、脳の離れた部位の間で機能的結合性(functional connectivity: FC)の評価が可能となり、無視患者では広範囲な注意ネットワークでFCが変化しており、FCの変化が急性期および慢性期の無視の程度および機能回復と関係することを報告されています(He et al., 2007)。私たちは、健常者でPAにより脳内の背側視覚注意経路を中心とした安静時FCの変化が生じ、1時間程度で定常状態に戻ることを確認しました(図3; Tsujimoto et al., 2019)。さらに、この研究を発展させ経頭蓋磁気刺激(transcranial direct current stimulation : tDCS)により健常者に疑似的な無視状態を引き起こし、その時のFC変化と疑似的な無視症状が相関することを見出しました(図4; Tsujimoto et al., 2022)。また、慢性期半側空間無視患者に対して2週間のPA療法を用いたリハビリテーション治療を行い、治療効果とfMRIによる安静時FCの変化を検証する臨床研究を国立精神・神経医療研究センターと共同して行っています。
 私たちは、様々なNM手法により視覚性注意ネットワークがどのように変化するかをFCにより検証すること、さらに、複数のNM手法の相互作用を明らかにすることにより、無視の病態に根差した治療ターゲットを設定し効果的な治療法を開発することを目的として研究を行っています。

プリズム適応療法
半側空間無視の神経機構
図1 プリズム適応療法
図2 半側空間無視の神経機構
プリズム適応前後のFC変化
図3 プリズム適応前後のFC変化

 私たちは、脳波ブレイン・マシーン・インターフェース(brain-machine interface: BMI; 図4)や随意運動介助型電気刺激装置(Integrated Volitional control Electrical Stimulator: IVES®など、様々なニューロリハビリテーション手法を用いて、脳卒中などによる機能障害のリハビリテーション治療を行っています。慶應義塾大学などと共同してニューロリハビリテーションによってもたらされる脳・神経の可塑性変化を、体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential: SEP)やH反射、相反抑制など電気生理学的手法やfMRIなど脳機能画像を使って評価し、メカニズムの解明と治療法の開発を目指して研究を行っています。

脳波BMIリハビリテーションシステム
図4 脳波BMIリハビリテーションシステム
SEPによる感覚機能改善の評価
SEPによる感覚機能改善の評価
図5 SEPによる感覚機能改善の評価

脳・神経可塑性を促すニューロリハビリテーション治療の開発

神経・筋疾患に対するニューロリハビリテーション治療の開発

 私たちは、国立精神・神経医療研究センターなどと共同して様々な神経・筋疾患のリハビリテーション治療の開発やその効果判定などにも取り組んでいます。

パーキンソン病のparadoxical gait
図6 パーキンソン病のparadoxical gaitの神経機能の解明

国立精神・神経医療研究センター病院

​身体リハビリテーション提供

藤本ら、第3回日本リハビリテーション医学会秋季学術大会、2019

図7 デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する装具療法の効果

Modulation in human brain plasticity using neuro-rehabilitation procedure

 近年のリハビリテーション医学領域では、永らく困難と考えられてきた中枢神経の障害による機能障害の回復に関して、幾つかの有効な治療法が開発されています。研究課題として挙げた“Modulation in human brainplasticity using neuro-rehabilitation procedure”は、私達が 10 年以上に渡り取り組んできた反復経頭蓋磁気刺激療法や神経筋電気刺激療法によって誘発される脳の可塑性変化についての臨床研究であり、神経変性疾患や不随意運動、および片麻痺患者に試行し一定の成果を挙げてきました。
 現在は主に脳卒中による片麻痺上肢の治療に取り組み、その効果の定量化を試みています。さらなる効果の獲得に向けて、4 連発刺激などの最新の刺激法を導入し、近未来的に実地医療に貢献できるよう努めています。

反復経頭蓋磁気刺激療法
図1  運動野を標的とした反復経頭蓋磁気刺激療法
図2  新しい神経筋電気刺激治療機器 PAS system

Electrodiagnosis in patients with carpal tunnel syndrome

 神経伝導検査や筋電図検査を代表とする電気診断学は、リハビリテーション医学のなかで神経筋疾患の診断および障害の評価を行うにあたり専門医に必須の技能として極めて重要であります。私達は日常診療において対診する機会の最も多い末梢神経障害である手根管症侯群(carpal tunnel syndrome;CTS)の電気診断について検討を重ねております。CTS の診断を目的に開発された数ある神経伝導検査法のなかで、最も異常検出感度の高い方法を明らかとする研究を進めてきております。
 一方、さらに有用性の高い新たな検査法の検討にも取り組んでおります。以下の波形は、第2虫様筋から複合運動神経活動電位を導出する際に観察される、いわゆる“ premotor potential”と呼ばれる感覚神経活動電位であり、CTS 診断の一助となる可能性について検討しています。私達は電気診断学的検査法の診断精度を高め、患者に貢献できるよう努めています。

図3-A)虫様筋骨間筋比較法で記録した複合運動神経活動電位
図3-B)虫様筋の複合運動神経活動電位に先んじて観察される“ premotor potential”
(Kodama M, et al. Muscle Nerve, 2012 より)
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